アユ釣りマガジン on sight

小沢流「待ち釣り」の核心

前アタリをとらえ、追いをうながし、ハリに掛ける2分間の戦略

小沢聡=語り

  • テクニック
小沢流「待ち釣り」の核心

小沢兄弟の大前提は引き釣りであり、瀬の釣り。活性の高い魚だけを狙っているように思えるが、それではトーナメントで安定した成績を残せるはずがない。彼らの強さの秘密は、引き釣りの中へ巧みに取り入れた、オトリを止めて待つ戦略にある。しかし「止めて待つ」という操作は単純に思えて意外と難しい。待つための根拠や時間、どのようにオトリを止めるかなど、そういったものが完全に理解できていないと疑心暗鬼に陥ってしまう。では、小沢聡さんなら、どう考えて釣りを組み立てるのか?

止めて待つ、その定義

 まず間違えやすいのが、止める釣りというと「目印が止まっていること」だと思う人がいるかもしれませんが、それはオトリが休んでいる状態であることが多いです。まずこれを理解することが大前提で、最初に強く言っておきます。

 止め釣りといっても、本当にオトリが止まっていては野アユは掛かりません。絶対に川底を少し切った位置で、ウロウロしてないといかんですね。尾ビレを振っていても定位しているのはよくないです。一定の狭いエリアで、5cm、10cmでもウロウロ、ゆらゆらして動いてないと。DVDなんかで水中の映像を見ると、定位しているオトリをよく映すんですよ。だけど、定位している野アユなんて1尾もいないですよね。橋の上から見ていても、一瞬だけ定位することはあっても、野アユは動き回ってますよね。逆に尾ビレを振っていても1カ所に定位していては不自然です。

わずかに穂先が曲がった状態でオトリをコントロールすることが、待って掛けるための最大のポイント。言葉にすれば簡単な操作だが、問題はその精度。弟の剛さんもそうだが、小沢兄弟のテンションコントロールは絶妙。私見だが、撮影で穂先にピントを合わせる際、一番ブレが少なく思えるのがこの2人

 もっと言えば、動いていなければハリには引っ掛からない。オトリが動けば野アユにハリが触れる確率は跳ね上がります。たとえば小さな水槽に50尾くらいアユを入れて、掛けバリを沈めてジーッと待っていてもなかなか掛からないけど、上下に動かすだけでかなり違いますよね。1点で止まっているよりも、動いているものの方が接触率は上がります。そういう意味でもオトリは動いていることが重要です。

 ですから止め釣りではなくて「待ち釣り」だよ、ということを強調したいですね。待つことが大事で、オトリが止まっていてはいけないんです。それでオトリを休ませないようにする方法ですが、元気なオトリなら糸をたるませていても本来いるべきタナを泳ぎますが、ちょっとでも弱ってくると川底で休んじゃうんです。これは根掛かりと一緒で、野アユにハリが掛かる確率はゼロになっちゃうもんで、いくら待っていても掛かりません。

糸は緩めない

 そういう状態を作らないようにするために僕らは、待つにしても必ず軽く糸を張ります。オトリの動きを感じるギリギリぐらいで。あまり強く張っちゃうと浮き上がったり、ついてきて移動しちゃうので、ついてこない程度にするとオトリの動きというか重みをモゾモゾ、コソコソと竿先で感じることができます。根掛かりしていないことが分かる最小の張り加減、と言っていいかもしれませんね。

 糸を緩めたらオトリが動いているのか休んでいるのか、分からないようになるんですけど、軽く糸を張ってやることで分かるようになります。また、糸を張ることで弱ったオトリもムクッと起き上がって強制的にモゾモゾ動きます。加減は難しいんですけどね、少しでも強く張り過ぎると浮き上がったりしますから。逆に元気がいいとビューッと移動しちゃいます。移動して悪いわけじゃないけど、待ちたいときにはいかんですね。ただ、オトリの動きを感じるまで糸を張るということは大事なことです。

「止め釣り」ではなく「待ち釣り」。オトリはあくまで動いてなければならないから糸は緩めない

 待ち釣りをする条件ですが、まずピンポイントで絞り込めるところ。たとえば渓流相の釣り場ですね。このヨレ、この石裏、この樋(とい)、という感じで攻めていきますが、ポイント的に待たざるを得ないともいえます。あとはオトリを引いてついてこないときにも使います。無理矢理やってもダメなときは待って掛けてやれ、ぐらいの気持ちですね(笑)。

 それと、前アタリが出たときですね。「トン」とか「ビン」とかいう感触やオトリが嫌がって逃げたとか。このときに切り替えます。特にフラットなポイントではいきなり待ち釣りというのはナンセンスです。効率が悪すぎます。

 ポイントをマス目に区切ってつぶしていく、というのも僕らはやらんですね。基本はゆっくり動かして反応を探ります。その中で前アタリが出たところや、オトリが動かなくなったところは地形に何らかの変化があり、オトリにとって怖い野アユがいると考えられます。

2分間の理由

 待つ時間なんですが、かなり前になるんですけど、水中に潜ってオトリを観察することが仲間内ではやってね。おもしろくて病み付きになるほどですよ。見たことないですか? 連れのオトリとかを見るんですけど、それが結構寝ているんですよ。どえらい上手なヤツでも…。「これがオレのオトリの最高の状態だ!」と言ってても寝ていたり…。バカにできなくて、結構な確率なんですよ。根掛かってはおらんけど、絶対に掛からない状態ですよね。

 話はそれましたが、僕らは2分から3分待つ、と言ってるんですが、潜ってみると野アユって想像以上にたくさんおるんですね。一日釣って20尾か30尾という川でも潜ってみると「こんなに!」というくらいおるんですわ。歩くようなところでも潜って見ればアユはいますね。その中で掛かるアユというのはほんの数%だということを実感したんですが、もっと感じたのは「いるヤツはかなりの確率で釣れる」というイメージがあるんですけど、オトリを沈めてポンと掛かる魚はごくごく少数なんですよ。それ以外にオトリを追わない野アユっていうのはメチャメチャ多いんです。

サカバリはオトリへのダメージが少ない皮打ちでセット。ハリスの長さはほんの少し長めに

 オトリに対して野アユはものすごく反応するんです。「何だ?」という感じで。かなり弱ったオトリに対しても反応はします。ただ、追い行動に移る魚は少なくて、その中のほんの数%が寄って来てちょっかいをかけて掛かる。反応はするんだけど見に来るだけで追わない魚が多いんですが、それを見とると威嚇するような、周りを気にするような動きをしていて、いつまでもナワバリから出ていかないオトリに対しては怒りを増すようで、だんだん動きが激しくなってくるんです。そして怒りがピークに達するとちょっかいをかける。

 たとえば犬や猫がケンカするときでも、最初は「ウー」とか「シャー」とか威嚇しますよね。それで相手が引かないとバッとやる。それと同じでアユも出合った相手とケンカばかりでは身が持たないですよね。威嚇してお互いに体を傷付け合わなければオッケー、というのが動物の本能じゃないかと思うんです。野アユもオトリが来れば口をカッと開けたりヒレが立ったりします。怒ったような顔をしています。けど追わない。そこでオトリが知らん顔してるとだんだん動きが激しくなってきてバーンと掛かる。イラついているのが分かります。

 その怒りがピークに達する時間が、だいたい1分から2分くらい。いちばん多いパターンは、オトリを入れて1分くらいで前アタリが出だすんです。それは待っている間に野アユが怒って、オトリが逃げたりするので出ると思います。さらに1分くらい経つとガーッと来るイメージなんですが、大事なのは追ってもなかなか掛からないんですね。教科書通りの追いなら掛かるのかもしれんけど、かなりまとわりついてもハリが乗らないんです。

掛けバリは使用前に指で押して、通称「グラグラ4本イカリ」に。バレも少なく具合がいいとのこと

 じゃあ5分、6分待てばもっといいようにも思えますけど、2、3分を境に野アユがオトリを無視するようになってくるんです。「怒ってもダメだ」とあきらめるのか、仲間として認めちゃうみたいになる。そういう現象を観察することが多かったもんで、効率を考えて3分。もちろん5分とかで掛かることもありますけど、グラフの山で見れば低い部分になると思います。

 待つタイプの釣りをする人に聞いても、明確な時間を持っている人は少なかったけど、それでも2分や3分と答える人が多かったんです。亡くなっちゃったけど立岩克也さん、あの人の釣りはすごかったけど、オモリを付けて引く釣りもするんですが、待ちも多用していたんです。立岩さんは2分て言ってましたね、潜って見たのか体感なのかは分かりませんが。ほかにもいろいろ聞きましたけど5分という人はいなかったですね。

体内のリズムを作る

 今シーズン(2013年)は釣りがバタバタしてたんで、前にもやっていましたがチャック付きの袋に入れたキッチンタイマーをベストに付けて時間を計っているんですよ。こないだからは2分30秒にセットしていて体にリズムを覚えさせるというか、自分でイチ、ニと一日中数えとると、夜寝るときにも無意識に数えて気持ち悪くなってくるんですよ(笑)。これを使うと変な病気にならんかなぁと…あんまり言うと恥ずかしいでね。

 毎年、釣りが雑になっているなと思ったときに腕時計でやっていたんですけど、歳をくってきたのか何分経ったか忘れちゃうこともあるもんでね(笑)。もっと言えば、調子が悪くなってくるとだいたいバタバタして、釣りのリズムが速くなっているんですわ。そんなときにこれを使って待つ釣りをまぜたり、待たないにしても一度オトリを入れたら2分間は何とか工夫してコースを変えて引き続けるとかね。焦ってくると5秒とか10秒で上げちゃうんですよ。そうすると釣りが荒れてしまいますからね。スローな釣りのリズムを覚えさせるんです。

釣りのリズムが崩れているときはオトリをポイントに入れて打ち返すまでの時間が短くなりがち。時計でチェックすることも重要だ

 剛が4冠を取った年なんか、ずーっと腕時計を見てましたね。「何やっとるんか?」と思うくらい見てリズムを作っていましたね。それで勝ちよったんで、あながちバカにはできないんじゃないかと。相手に先に釣られようと、自分は1尾目が釣れてなかろうと、リズムが一定でマシーンのような釣りができるんです。調子が悪くなってくるとバタバタするのは、剛でも、ビギナーの人でも、始めて5年目6年目の人でもまったく一緒です。雑になるのはイコール、オトリを上げる回数が多くなるんです。

 もうひとつ待ち釣りの利点というのは、軽いテンションで2分から3分きっちり待っていると、オトリが元気になるんです。もちろん根掛かりさせてはダメですけど。高水温のときも弱りにくいですね。やはりオトリを上げる動作というのはかなりのダメージがありますね。2分から3分というのはあいまいで申し訳ないんですけど、僕はだいたい2分なんですよ、120秒だからイチニーマル釣法。揖保川でジャパンカップを取ったときがそうだったんです。剛は3分。カップラーメン釣法と言われて「やめてくれ!」と言ってましたが(笑)。どっちも間違いじゃないんですが、僕はせっかちなもんで待つのが辛いんですわ。前アタリが出たとか、絶対いるだろうというポイントでは3分待ちますが、基本は2分ですね。

待つための操作

 待つ、と判断したときには基本的に引き上げを止めます。僕らの大前提として、ジワジワと少しでも引き上げたいという気持ちでやってるもんですからね。「ついてこい、ついてこい」というテンションを、緩めるんじゃないけど弱めるだけです。

 剛の場合は待っとるだけだと退屈なもんで、そこからさらに「レベルテンション釣法」とかになりますけど、確かにオトリの姿勢が高すぎたり低すぎたりの理由で、追ってもハリが乗らない状態になっていることがあるので、オトリの姿勢を変えてやればハリに掛かりやすい状態になるんです。だから「乗らんな~、乗らんな~」とアイツはよく言ってますわ。ちょっと操作するだけでオトリの尾ビレ側が上がったり、タナが変わったり、ごく小さな変化だとは思うんですけど、それが大きな違いになると思うんですけどね。

 僕もね、剛ほどではないんですけどやるのはやるんです。イメージとしてはオトリのお腹の下にすき間を作ってやる感じです。前アタリがあればそこから1分待つんですが、たいてい2回目や3回目の同じような反応があるんです。反応がなければ引き上げたりしますが、間違いないと思えば合計で2分から3分待ちます。その間に竿の角度を少し上げてオトリをちょっと持ち上げることが多いですね。テンションは目印のフレ方をやさしくしたり、強くしたりで、ざっくり変えていきます。

前アタリを感じたら少し竿の角度を変えてやる。たったそれだけのことだが、オトリの動きを変えるには十分だ

 具体的には、竿先の高さでいえば50cmから1mくらい上げます。45度の角度でもいいと思うんですよ、ただ僕の場合あまり竿を立て過ぎると横に動いてしまうのでね…。いずれにしろ、やはり野アユがオトリの下に潜り込めないと掛からないのかもしれませんね。剛もどちらかといえば前アタリがあれば竿を起こすことが多いですね。

 操作としてはこのくらいで十分だと思いますけど剛はテンションも3段階くらいに分けていますね、「オトリの鼻をくすぐる」とか。こう言うとすぐに「そんなことできるわけない!」って人がいますけど、あくまでも僕らの「イメージ」ですからね。実際にはどうか分かりませんし、もっとアバウトだと思います。そういう「つもり」で操作しているということです。

前アタリの正体

 前アタリが分かる、分からないというのは、意識しているか、いないかの話だけです。

 僕が人の目印を見ていても「アッ!」と分かるときがあるくらいです。竿も持ってないのに。でもその人は何も気付かずにそのまま釣っていることもあります。僕の後ろで見ていた剛と2人同時に「オッ!」と言うこともありますね。「出たな、今のそうだろ?」とかね。竿を持っていなくても分かるんですから、前アタリは絶対に分かるんですよ。

 それで、前アタリはどんなものかといえば、よくあちこちで言ってるんだけど、「ビン」とか「トン」とか「コソッ」という感触です。流れてきた落ち葉が糸に当たったり、目印を水没させると小魚が食い付いてくることがありますけど、あれとそっくりなんです。笑い話じゃないけど、2回反応があったからもう掛かると思って待っていたら、小魚が目印をつついていたとかね。似てるので間違えちゃうんですわ。あと、明らかにオトリが流れに負けていない状態で、急に嫌がるように下がったり、引いてたオトリがヒューンと横にそれるのもそうですね。ニゴイに追われていることもありますけど。

 「高い竿を使っているから分かる」なんて言われることもありますけど、安い竿でも出ますよ。目印にも出るくらいですからね。短くて高弾性の素材であるほど出やすいのは確かですけど、僕は昔、シマノの香鱗8mを愛用していたんですが、このクラスでもちゃんと出ます。あまりに長くなると難しいかもしれませんが。

 ナイロンの伸びる仕掛けとか、オバセを大きく出す泳がせでは、前アタリが分からないとは言わないけど分かりにくい。張っていればある程度は分かると思うけど、オバせると分かりにくいですね。「前アタリなんてあるわけない、大げさな」と言われることもあるんだけど、そんな人はナイロンを使っているか、オバせて操作する人が多いんですわ。だから「ウソだ」という人がいるのも分かります。

 オバセは別にして、前アタリが分かりやすいテンションはあります。竿の感度は糸電話と同じです。糸が弛んでたら鈍るのはもちろんですが、張っていればビンビンに伝わりそうな気がしますけど、そうではありません。穂先が曲がるか曲がらないかのときが一番感度が出るんです。ギューッと3番くらいまで曲がり込むと感度は落ちますね。やはり穂先がクッと曲がり込む、しなっとなるような状態、張らず緩めずということになるんでしょうが、それが一番オトリの動きも理想だし、竿の感度も生きる。理に適った張り方だと思います。

繊細な前アタリを捉えて待てば、その後は爽快な本アタリと引きが待っている。これぞアユ釣りのだいご味

 ただ、どちらかといえば張り方が足りない人が多いですね。穂先が曲がり始めた時点でやめちゃう人が多いんだけど、オトリが根掛かっているのか、動いているのかまだ分からない状態で止めちゃうんですね。そこからもう少し張った状態でオトリが動きだしますし、根掛かっているなら「カチッ」という感触があります。糸は張っているんだけど、まだ動きが感じられないところで止めている人が多いですね。あと5cmか10cmのレベルだと思うんですけど…。体が覚えれば考えなくてもできるようになります。そうなったらしめたものですね。

 前アタリについて僕がずっと分からなかったのは、伝わる信号は明らかに野アユが糸に当たっているような感じなんです。そうそう都合よく糸に当たらないと思うんですが、「ビン」「トン」ていう感触がしょっちゅう来るんです。何でだろうと思っていたんですが、水中に潜るのがはやった当時に、仲間が「糸に当たってなくても出る」と言うんです。答えはどうも、オトリがキュッと逃げるときの動き。これは推測で本当の答えじゃないかもしれないけど。

 それに昔、家でオトリを真っ白なポリタンクで生かしていたときに「ドン、ドン」って音がするんですよ。最初は光を嫌がって暴れているのかなと思ったんだけど、光の入り方は同じですし、たとえば5尾入れておくと鼻をぶつけているアユとそうでないヤツがいるんです。それでフタを開けてのぞいてみると、何かの拍子に強いヤツが弱いヤツを追うんです。それで弱いヤツが逃げてぶつかってたんです。かわいそうなくらい…。そういったオトリの急な動きが糸に伝わるのが前アタリじゃないかと思っています。

 待ち釣りについては、そんなところですかねぇ。普段は無口なんですが、アユの話になるとしゃべりすぎるでいかんのですわ(笑)。

2020/06/05

この記事はアユ釣りマガジン2014に掲載されたものを改訂、再編集しています

Facebook

@ayumagaOfficial

Facebook

ayumaga_official