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上田弘幸の原点、メタル泳がせの実際

竿下でオトリを操り野アユを警戒させずに掛ける技

編集部=撮影・文

  • テクニック
上田弘幸の原点、メタル泳がせの実際
 

高速でグリグリとオトリを引き上げる過激な釣り方を武器に、2019年のトーナメントシーンを席巻した上田弘幸さん。しかし、愛知県の中小河川でアユ釣りを覚えた上田さんの原点は立て竿の釣り。いかに野アユに警戒心を与えず、細かいポイントを攻め切るかが釣果の差につながる。

メタルラインとゼロオバセの相関関係

■上田さんのポイント攻略は、その独特な釣り方との関連性を抜きにしては語れない。それはホームグラウンドの河川形状、つまり河原の狭い中小河川というシチュエーションが、大いに影響しているようだ。

■以下の写真の撮影場所は愛知県巴川。時期は9月下旬で渇水。アユはとても神経質なシチュエーションだ。ポイント形状は異なるものの、いずれも右側が上流。そして上田さんは写真の左端、下流側にポジションを取っている。上流を向いて立て竿で構える姿から、上流へオトリを飛ばす釣り、オバセを効かせた(糸フケを出して操作する)泳がせ釣りと推測してもおかしくはない。

■しかし、実際の上田さんの釣りはメタルラインを用いたゼロオバセの釣りだ。広く探るというよりはクロスワードパズルの1コマ1コマを埋めていくように攻める。もちろんオトリが元気な状態なら飛ばすこともあるし、流れや状況によってはポイントの横にもポジションを取る。それでも基本は(少なくとも取材時は)ポイントの下流側にポジションを取り、上流を向いて竿下(竿先の真下)周辺でのオトリ操作に徹していた。

真横にポジションを取れば、左岸のヘチ(点線内)を静かに釣るには後ろに下がり、岸に上がらなければならない。掛けるまでは問題ないものの、オトリ交換時はガサガサと水際へ戻るはめになる。これでは一歩下がった意味がない。左岸下流の水際から上流を向いて狙えば、掛けたアユをその場で取り込み、交換し、ヘチを静かに探り切ることができる

■立て竿であっても「水中糸のオバセはより少なく」というのが、現在多くの名手が共有する見解である。速いオトリの泳ぎでは釣りにくい時代なのだ。さらに、「比重が高く、水切れがよすぎるので泳がせには向かない」と考えられているメタル水中糸を積極的に活用する上田さんの釣りは、従来の泳がせ釣りとは完全に異なる「メタル泳がせ」とでも呼ぶべきものになるだろう。

■上田さんの釣りの要点を順にまとめてみよう。まず、立て竿のゼロオバセ操作であること。これはオトリが元気なら泳ぐスピードを抑え、弱り気味なら吊り上げて強制的に泳がせやすい竿角度とラインテンションである。ゼロといっても、その周辺のわずかな強弱を使い分けることが重要だ。また、オバセをなくすことは、ハリ掛かりの瞬間に水中糸が石に巻かれたりしにくい利点もある。

■次にメタルラインの積極的な活用。糸フケを出さないから「メタルでも使える」のではなく、「メタルでなければならない」のだ。群れアユの中にオトリが入れば、高い感度ですぐに察知できるし、竿を立てても(水中糸を立てても)高比重ゆえオトリを沈めやすい。

ポイント下限に座り込み、まずは護岸沿いのヘチとポイント下流側(点線内)を狙う。もちろん掛けたアユを抜くときも座ったまま。ひと通り探り終えれば引き舟をその場に置き、上流に見える白泡付近の横にポジションを取り、流れにオトリを引き込む。このとき、掛けたアユは自分が下りながら抜き、引き舟近くで受ければムダがない

■また、流れの速度とオトリの元気度がピタリと合えば「立て竿のままオトリを引く」という芸当さえ可能になる。狭いポイントではこの技を駆使して8の字軌道で引き続けることもあるが、特に小集団の群れアユを掛けるには「野アユのいる場所にオトリを維持し続けないと釣れないですよ」とも上田さんは語る。その威力たるや、40cm四方で20尾近く(!)掛けることもあるというから驚きだ。

■そして、最後の要点が上流を向いて釣り上がること。神経質なアユに対しては下流からアプローチする方が警戒心を与えずにすむ(基本的に魚は上流を向いて泳いでいるので)が、オバセを効かせてオトリを上流へ泳がせる場合、弱ってくると急激に根掛かりのリスクが増えてしまう。

■これは水中糸が受ける流れの抵抗が、オトリの元気度を上回るからだ。ゼロオバセ+竿下のオトリ操作なら、多少弱ったオトリを自分の上流側で泳がせても根掛かりしにくい。繰り返しになるが、それはオトリを吊り上げて泳がせることで尾ビレを強制的に振らせるからなのである。 

ここも下流側にポジションを取ることで魚を散らさないようにする。オトリを気ままに泳がせても問題なさそうに見えるが、砂地の中に石が点在するトロ場は狙い撃ちでないと非常に効率が悪い。写真は矢印の石の上流側を狙っているところ。オトリカンを沈めてある場所の水深と大差ないが、これでも釣れる

タナをどのように攻略するか

 下の写真は中洲で流れが2本に分かれ、タナの連続するポイント。ここで約2時間竿を出してもらった。

 写真下側はちょうど橋の真下になり、そこに流れが落ち込んで深みを形成している。まずは上田さんのポジションに注目してもらいたい。釣り上がりが前提なら、エリア下限から釣り始めるのは当然だが、スタート地点をここに選んだ理由はそれだけではない。

ここで最大の見どころはCの攻略だろう。石で細かく区切られ、もっとも流れが複雑な場所といえるが、ここは釣れる確率がかなり高く「鉄板ポイント」だと上田さん

 「河川によって違いますけど、放流でも天然でも、淵の一段上はアユが溜まりやすいんです。同じように淵の一段下もいいですよね」

 つまり淵の一段上が、ここにあたるのだ。また、エリア下流側の方が小場所が続く、というのも鍵になる。

 「まずは小場所ですね。この川に限ったわけじゃないと思いますけど、石に囲まれたポイントの方が、オトリが追われても逃げにくいので掛かりやすいと思います」

 写真の立ち位置ですぐに1尾目を掛け、オトリを替えた上田さん。以降は順調に数を伸ばし、このポイントだけで24尾を手中にした。

 それでは、立ち位置と狙うタナの関係を順に解説していこう。スタート地点の1からは、向きを変えるだけでA、Bを攻め切り、Cの右側も探った。

 次に石の陰に身を隠すようにして2へ移動。Cの中央、Dの右岸ヘチを狙う。Cでは白泡の根元にオトリをこすりつけるくらいまで探った。それが最初の解説写真の場面になる。

2からCの奥を見るとこのような感じ。実線で囲った部分が上田さんのいう「鉄板ポイント」。石で囲まれた奥の狭いスペース(下向き矢印)や白泡のすぐ上、水の落ち際(左向き矢印)も見逃せない“スポット”だ

 その後は3に出てCとDの残りを狙い4へ移動。ここからEをくまなく探り、あまりに釣れて時間が押してきたのでFをパス。5からGの手前とHの下流側を探り、さらに6へと進んでGのアシ際を狙った。ラストは7、8に進んでHを上流いっぱいまで釣って終了。

これは5からHの最下流でヒットさせた瞬間。水の落ち際がやはり竿抜けになるのか、重点的に狙っていた

 巴川は最初の1尾目を取るのが非常に難しい川だとされている。なぜか朝イチの追いもよくない。実際、早朝に橋の上から川をのぞき込んで見えなかった魚影が、日が昇ると湧いて出るように現れる。おそらく、これらの要因が重なり「オトリ継ぎ」を困難にするのだろう。

 上田さんの場合、入川時間は午前9時半と遅めのスタートであったが、オトリに関してはあまり気にしていないようだ。購入したオトリは「普段通り」の養殖1尾だけ。 

 「養殖は確かに掛かりにくいんですけど、やはりオトリを取るには石に囲まれたポイントを狙うことが大事です。オトリが追われて逃げる範囲が間違いなく狭くなりますからね」

 つまり、先に解説したオトリを取るための小場所攻略が、巴川攻略の第一歩にもなっているのだ。

 とはいえ、上田さんも予想外だったことがある。この日は流心での追いが悪く、どちらかといえば脇の流れでよく釣れたことだ。よく見てみると、流心の石には水生昆虫が砂で作った巣が張り付き、野アユがあまりコケをはめない状態だったのだ。

 それでも最終的には59尾まで数を伸ばすことができた。取材でなければ70尾は確実に超えていたかもしれない。

2020/04/16

この記事はアユ釣りマガジン2010に掲載されたものを改訂、再編集しています

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