本格的な夏を迎えるこれからの季節はだんだん日差しがきつくなってくる。そんなときに水面のギラつきをカットし、水中を見やすくしてくれるのが偏光サングラス。高性能の釣り専用モデルが普及してそれなりの年月は過ぎているが、まだまだ知られていないことや誤解も多い。そこで今回は『ZEQUE』の森下龍一さんに高性能偏光サングラスに対する率直な質問をぶつけてみた。
日本はサングラス後進国
ーーそもそも価格の高い偏光グラスは安価な製品と何がちがうのでしょうか。
釣具店に行くと回転什器にサングラスがいっぱいかけてありますけど、あれも偏光レンズ(を用いた偏光サングラス)なんですよ。僕らの商品ももちろん偏光レンズなんですが、値段は10倍以上差がありますよね。どういった部分がちがうのかとフィッシングショーでもよく聞かれます。
まず日本でいちばん流通しているレンズ素材なんですが、これはTACという素材です。
ーートリアセテート、ですね?
そうです。そのレンズが日本で流通している偏光レンズでいちばん大きなウェイトを占めています。だいたい0.5mmから1mmくらいの厚さで結構軟らかい。中国で生産している物を使用している製品が多く、日本から1000本、2000本の単位で(サングラスの完成品として)注文するわけなんですが、工場から日本に入ってきたときにまず検品をします。
いちばん簡単な検品というのは、レンズがフレームの枠の中に入っているかどうか。もちろんレンズが外れていたら不良品なんですが、だから工場はフレームに対してパツパツにレンズを入れてくるんです。レンズのサイズをフレームのサイズより少し大きく作るわけですね。
それで何が起こるのかというと、軟らかく薄いレンズなのでたわむんですよ。つまり「ゆがみ」ですね。いわゆるレンズのカーブが損なわれた偏光サングラスが出来上がるんです。そういうものをかけると、頭が痛くなったり、遠近感が狂ってしまったり、釣り終えた後に目が充血して疲れたりします。これを「偏光酔い」というんです。
ーーそんな言葉があるんですね。
あるんですよ。だから我々がこの市場に商品を持ってくる前は、偏光サングラスをかけるとしんどい、という声がすごく多かった。
ちょうどそれが20年前くらいの話ですが、当時は安い偏光サングラスしかなかったですし、そういった商品が主流でした。今でもそういった商品がいちばん流通してはいるんですけど、かけると疲れるから使用しないというお客さんの声もすごく多いです。
ーーでも日本は“メガネ大国”なんですよね。
日本のレンズメーカーやフレームメーカーの技術力は世界トップクラスですが、サングラスを使用しているユーザーが海外に比べて非常に少ない。その点、日本はサングラス後進国といえますね。
ーーそうなんですか?
ですので、たまに粗悪品があります。これは紫外線チェッカーという機械なんですが、ここにレンズを通すと紫外線をカットしているかどうかが分かります。中には紫外線を通してしまうレンズを用いているサングラスもありますね。つまりサングラスは何でも同じかといえば、決してそうではありません。
紫外線を通してしまうレンズだと、変に色が着いているだけに目の瞳孔が開いた状態になってしまいます。容易に想像できると思いますが、これは非常に目に悪い。瞳孔が開いている状態で紫外線を目に入れてしまいますので。
また、紫外線をブロックしていても、先ほど述べたゆがみが目に悪影響をおよぼすこともあります。ですから確かなメーカーの製品を購入されるほうがいいと思います。
話を戻しますと、プラスチックレンズの素材としてはTACもそうですし、いちばんスポーツサングラスで使われているのはポリカーボネイト。そして我々が使っているCR39という光学プラスチックもそこに含まれるので多岐に渡るんです。
ーー釣り用偏光サングラスのプラスチックレンズ素材としてはこの3種でよいのでしょうか。
素材としてはほかにもPU(ポリウレタン系樹脂)やMRという高屈折のレンズがあります。度付きレンズでは高屈折のものが使用されることもありますが、おもな素材はTAC、ポリカーボネイト、CR39になります。
ベストの選択がCR39だった
ーー偏光レンズに求められる性能とは何ですか。
まず前提として、明るくて偏光度の高いレンズであること。それで水中の深いところが見えるんですよ。深いところは太陽光が入っていかないので暗くなっていくからです。見たい深い(暗い)ところを、暗いレンズで見ても見えないですよね。
でも回転什器に並んでいる偏光サングラスは色の濃い(暗い)ものが多いですよね? それはなぜかというと欧米のユーザーに受けないからなんです。サングラスのいちばんのマーケットは欧米なんですよ。
ーーそれは瞳の色の濃さの違いですか。
それもあるんですが、アメリカやヨーロッパは日差しがすごくきついんです。それで濃いレンズの需要がすごく高いんです。可視光線透過率でいうと12%とか15%。サングラスをかけていない状態を100%としたときに、85~88%の光をブロックする。逆にアジアの方、特に日本人は光に比較的強い。なので明るいレンズのほうがよかったりするんですが、当社でいちばん売れているのは可視光線透過率が30%くらいです。
そして先ほどの話で、なぜ回転什器に並んでいる偏光サングラスに暗いものがなぜ多いのかというと、欧米向けに作っていることが前提にあるからなんです。
ーーそもそも日本人に合ってないんですね。
そうなんです。まぶしさだけを軽減したい方が多い。あと偏光サングラスと通常のサングラスの違いが分かっておられない方もいらっしゃる。偏光サングラスのよさは、水面のギラつきをカットした上で水中の状態を見られることにあるんですが、先ほども申し上げました通り、暗いレンズだと見たいところが見えないんですよ。
ーーギラつきをカットできても、次が見えないということですね。ではCR39をレンズ素材に採用される理由は何ですか。
アンカット(フレームに合わせてカットされていない)状態のレンズでゆがみがなく、すごく透明度が高いこと。あとは軽さ。水の比重を1としたときにガラスは約2.5、その中間くらいの位置にCR39があります。
PUやMRなどの素材も軽いんですがお値段も上がり、またMRは度付きレンズには適していますが、度無しレンズにMRのような高屈折レンズは必要なく、むしろ度無しであれば低屈折レンズのほうが視界の違和感を感じにくい。ポリカーボネイトは量産に向いている素材でアメリカでは主流の素材ではあるんですけど、どうしても成型のタイミングでゆがみが生じやすいのと、透明度はCR39のほうが勝ります。ただ、大きなメーカーのスポーツサングラスを作っていらっしゃるところはほとんどがポリカーボネイトです。
ーーそれは耐衝撃性の問題でしょうか。
そういうことです。ですからスキーやバイクなどのゴーグルはポリカーボネイトが主流です。転倒の衝撃を考慮してということですね。ただ釣りの場合は見ることのクオリティを求められる方が非常に多いので、私どもは最善の選択としてCR39をおもに使っています。
ーーレンズの構造はどのようになっているのですか。
私どもの製品に採用しているタレックスのレンズは、真ん中に偏光フィルターが入っていて、CR39で挟み込んでいます。
その上に傷付き防止のハードコートを施しているのですが、さらにマルチコートがされています。これは反射防止のコーティングで光を分散するのですが、後ろから光が入ってくるようなときに、これが施されていないレンズだとわずらわしく感じます。また最近は撥水のコーティングも施されていますが、このあたりが安価なレンズとのちがいになりますね。
ーーほかのレンズ素材でもコーティングは施されているのでしょうか。
TACはほぼされていないですね。マルチコートは多層、ARコートは1層の反射防止コーティングなんですが、TACにもARコートを施すことは不可能ではありません。
ーー安価な製品に使用されるTACレンズにはコーティングを施す意味がないのですね。ちなみにポリカーボネイトはどうですか。
ポリカーボネイトはすごく傷が付きやすいんですよ。そういう前提があるのでハードコートは必ずしなければなりませんね。
ユーザーのみなさんにお伝えしたいのは、同じプラスチックレンズでもいろいろな素材がありますし、性能にもちがいがあるということです。同様にフレームにもいろいろな種類があり、ファッション性だけじゃなく機能性が重要だということです。
軽いレンズ素材だからできること
ーーCR39をレンズ素材に採用されているのは、フレームをデザインするときの自由度が高いことも理由なのですか。
それはありますね。私どもはフレームを作るメーカーになりますので、釣り人のみなさんから「こんなフレームがほしい」とアドバイスや情報もいただきます。
偏光サングラスってやはり重量バランスが重要だと考えています。すべての商品でそうなんですが、フレームは後ろに重心がくるように作っています。そうしないとレンズが入ったときに前にずれて“鼻メガネ”の状態になってしまったりとか、重さを感じることで釣りに集中できなくなったりすることもありますから。
それにプラスして、釣りでは遮光性の高いフレームが必要不可欠です。ただ遮光性の高いフレームは面積が大きくなりますので、軽いレンズを入れておかないといけませんし、軽いレンズだからこそ成立するデザインもあります。
ーーCR39だからこそ光学性能を保ちながらフレームのバリエーションを豊富に展開できるのですね。
そういうことですね。どのフレームが釣りに適しているかもよく聞かれるんですけど、やっぱりお顔に合ったものです。たとえば顔の小さい人が大きいフレームを選んでしまうと、すき間ができてしまったりします。
あと我々は遮光性、重量バランス、CR39のレンズを入れることを前提にサングラスを作っています。「レンズさえよければフレームは何でも一緒だろ?」と言われることもあるのですが、実際はそうじゃないんです。
ーーCR39のレンズに向いていないフレームもあるのですか。
あります。ナイロールフレーム(レンズが入るフレーム枠の下半分がテグスのもの)やレンズに穴を開けるツーポイントのタイプなどです。ゼクーで採用しているタレックスのレンズは非常にデリケートで加工が難しいんです。だから当社ではアンカットのレンズを専用の機械でカットし、手作業でレンズのサイズを調整した上、フレームにセットします。当社ではこの手間を大事にしています。
だから当社ではアンカットのレンズを専用の機械でカットし、フレームに入れるのですが、1本1本調べていきます。レンズを入れる前、入れた後にも検品します。
あと、レンズのサイズも微妙に変えています。たとえばVERO 2ndという人気のモデルがあるんですが、フレームのカラーが違いますよね(5色)。形状は同じなんですけど、カラーごとに入っているレンズの大きさは0.01mm単位ですべて変えてあるんです。
ーーつまりフレームのサイズが微妙にちがうのですか。
はい。塗装の厚みがそれぞれちがうので気をつかいますね。たとえばマットブラックのフレームと艶有りのフレームでは、艶有りのフレームのほうがわずかに塗膜が厚いんです。仮に前者のフレームのレンズを後者のフレームに移植すると、枠に対してレンズが大きいので、その分圧力がかかってしまう。つまり、レンズにゆがみが生じてしまうんですよ。
正しく扱えば長く使える
ーー偏光サングラスが想像以上に繊細で精密に作られていることは分かりましたが、取り扱いの注意点はありますか。
熱と水が偏光サングラスにとって大敵なのは間違いありませんね。
すべての商品に製品取扱説明書を入れさせていただいているんですが、お風呂、お湯は絶対ダメですし浴室に入ることもあまりよくないです。
基本は水洗い。汚れのひどいときだけ中性洗剤を使ってください。洗うときに中性洗剤をおすすめするのは、酸性やアルカリ性のものを使ってしまうとコーティングにダメージを与えることもありますし、油膜が残ることもあるからです。ただ中性洗剤を使うのは汚れのひどいときだけと考えてください。
流水で流して拭いていただけばいいのですが、レンズとフレームの境目の水分をティッシュで吸い取るといいですね。レンズをはめ込む部分のフレームの内側には溝が掘られていますので、ここに水が溜まったままの状態になっていると、偏光フィルムに悪影響を与えてしまいます。これはどんなレンズ素材にとってもよくありません。
ーーそうすると炎天下で使うのも気になってしまいますが…。
それは大丈夫です。外気は問題ないですし、炎天下こそ偏光サングラスを使っていただかないと(笑)。車内に置きっぱなしはよくありませんが。
ーークーラーの中に保管するのもひとつの手ですか。
実際そうされる方もいらっしゃいますね。実は年間でいちばん修理依頼の多い月は2月、3月なんですよ。なぜかというと12月くらいで一度釣りを休止して、そのままバッカンやクーラーボックスの中に入れっぱなし。春からの釣りに向けて準備をする頃に問題に気付くというケースです。
ですから私どもとしては、偏光サングラスは竿やリールと一緒の感覚で使っていただきたいですね。釣行後に竿やリールは洗って乾燥させるでしょ? 竿を持っている時間より偏光サングラスをかけている時間のほうが絶対に長いですから、しっかりいいものを選んでメンテナンスをしていただければ、一般的に思われている以上に長く愛用していただけると思います。
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