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中部河川対策から生まれた“S釣法”

有岡只祐さん躍進の原動力、石裏の緩流帯攻略【1】

編集部=撮影・文

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中部河川対策から生まれた“S釣法”

 有岡只祐さんが念願のマスターズで優勝したのは2015年、岐阜県長良川でのこと。高知県で生まれ育ち、天然遡上魚を相手にアユ釣りを覚えた有岡さんにとって、放流魚主体の中部河川は鬼門といえるフィールドだった。そこで人工産アユと低活性時の対策をキーワードに生み出したのが“S釣法”だ。

技術の差が出やすい川

 岐阜県長良川の郡上地区は全国的なトーナメント会場としても名が知られている。広大なポイントやアクセスの至便さはもちろん、試合前日にかなりの増水だったとしても水引きが驚異的に早く、競技会をおこなう上でこれほど理想的な河川もそうはない。決勝の舞台となる機会が多いのもうなずける話だ。
 一方で、初めて竿を出した人が面食らってしまうケースも少なくない。石は大きく流れは変化に富み、どこでも釣れそうに見えるのだが、簡単に釣らせてくれるようなことは、あまりないといえるかもしれない。
 年によって波はあるが天然遡上もあり、放流がしっかりおこなわれているので決して魚が少ないわけではないが、人気河川だけに訪れる人は多く、魚は常にプレッシャーにさらされている。また、放流魚は人工産(再生産を考慮して海産系F1が中心)が主体となるので、やはり天然魚に比べてクセがあるかもしれない。
 そのため技術の差が浮き彫りとなり、ある意味、玄人好みの釣りが楽しめる川ともいえるだろう。

石が大きく変化に富み、好ポイントが連続する長良川郡上地区。どこでも釣れそうに見えるが、どこでも釣れるわけではなく、状況によって偏りがある

個人技でなく再現できる技

 全体的に不漁の年だったといえる2012年のこと。有岡只祐さんは絶好調だった。シーズン初期に開催された東レカップで準優勝、強豪ひしめく中日スポーツ杯で優勝、報知オーナーカップでは決勝トーナメントにこそ残れなかったものの、来期のシード権を確保した。
 長良川でおこなわれたマスターズは3位で悔しい思いをしたが、初日のリーグ戦では腕利きぞろいのブロックを全勝で勝ち上がる。さらにそれらの試合では、きっちりとした法則に基づいた釣り方で白星を重ねていた。

有岡さんのホームグラウンド安田川は天然遡上メインだが、遡上量の少ない年はやはり放流魚の割合が増える

 有岡さんの釣りの原点はテンポの速い引き釣り。天然魚の数釣り勝負であれば誰も勝てないという声もあるほどだが、そんなスタイルとは真逆といえるのが2012年のマスターズだった。では、なぜ釣りを変えたのか?どう変えたのか?
 ここが有岡さんの飛躍した秘密であると同時に、多くの釣り師が人工産かつ低活性時のアユを攻略するヒントになる部分だ。なぜなら、それは特定の釣り師しかできない感覚的な個人技ではなく、多くの釣り師が再現できる「パターン」なのだから。

S釣法では竿の角度がおよそ45度周辺、目印の位置を比較的高めにセットしている。ラインは張らず緩めず、いわゆるゼロ付近のテンションで操作する

狙うは緩流帯と流れの境界

 有岡さんが提唱するその釣りは、瀬の中にある石裏の緩流帯が狙うポイント。これが大前提だ。流れの筋を釣る引き釣りとは対極にあるが、このような場所には低水温や逆に高水温で活性が低くなった魚、または人工産アユが集まりやすい。あるいは増水後ならアカが残るケースも少なくない。

タイトルカットで有岡さんが狙っているのは点線内の範囲。ここでオトリをフワフワと操る。引き釣りではオトリの動きが直線的になるし、泳がせ釣りではこの範囲に留めるのは難しい。だから引きでも泳がせでもない操作が必要になってくる(鳥取県日野川)

 もちろん、このようなポイントはこれまでも攻略されていなかったわけではないが、有岡さんが狙うのはさらに細かく、緩流帯と流れの筋との境界になる。それも緩流帯が消える消失点(と、ここでは呼ぶことにする)から反転流までの間。
 なぜ流れの境界を狙うのか? それは、ほんの少しでも追い気がある魚は、この境界付近をウロウロすることが多いと考えるから。完全に緩流帯の中を狙うなら従来の釣りでも対応できるが、少しでも追い気のある魚を狙う方が有利に決まっているからだ。

2020/02/26

この記事はアユ釣りマガジン2013に掲載されたものを改訂、再編集しています

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