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急瀬の天然鮎に効くオートクルーズ釣法

原点回帰の仕掛けが大河川で威力を発揮

編集部=撮影・文

  • テクニック
急瀬の天然鮎に効くオートクルーズ釣法

 かつて第一次泳がせ釣りブームの時代は、オトリを自由に泳がせるために現在とは比較にならないほど手尻が長かった。まだ引き抜きが一般的に普及する前でもあり、引き寄せて取り込む事に何の問題もなかったのだ。その後オトリを管理する釣りが主流となり、同時に引き抜きの普及もあって長手尻は過去のものとなったが、往年の釣りを知るベテラン福田眞也さんが当時の仕掛けを応用し、瀬釣りでリバイバルさせた。

両手を広げても余る手尻は2.5m

 G杯アユを3度制した福田眞也さんが、右手に竿尻、左手にサカバリを持ち、ぐーっと広げていく。案山子のような格好で両手を広げても、まだ水中糸がたわんで風に揺れている。なんと手尻2.5m。「釣れすぎるぐらい釣れる釣り方を発見したんや」と笑った。
 8月下旬、和歌山県熊野川中流の田長地区にある巻の瀬は、広々としたトロから流れが絞り込まれ、けっこうな落差で駆け下る急瀬。
 盛期を迎え、釣り人が増える時期だが、瀬がきついここにその姿は少ない。全体が小石から人頭ほどの石で敷き詰められているのがこの川の特徴だ。緩やかな流れに見えても入ってみると押しが強い。流れを抑制する大石がないから、表層から川底まで同じ調子で流れているのだ。

人の頭大の石までが敷き詰められている瀬は見た目以上に流れの押しが強い。こんなポイントでオートクルーズ釣法が威力を発揮する

 この急瀬を釣るなら水中糸は当然メタル。熊野川名物の天然遡上の良型アユが掛かることを考えると0.07号あたりを使うのが妥当か?
 「水中糸は?」と福田さんに聞くと、ニッと笑って「ナイロンのゼロロク」と返ってきた。「まぁ、見ててみ」という言葉を残してヘチ近くから釣り始めたかと思うと、瞬く間に2尾の重みを乗せた竿がグーンとしなった。

高比重のメタルラインが使いたくなるシチュエーションだが、福田さんが使っている水中糸はナイロン0.6号。超ロング手尻がオトリのなじみを助け、竿を寝かせれば底の流れに入る

メタルでは横に泳がない

 「糸の抵抗を極力小さくするのがメタル。でもメタルだとオトリはすっと底に入っていくけど、そこから動きにくい。オトリを縦に引っ張れても、横に泳がせるのは至難の業なんや。でも野アユが一番掛かるのは、オトリが流れを横切るように泳いだときなんよな。オトリを横に泳がせるにはどうすればいいのか。そこを考えたとき、意識したのが糸の抵抗を利用するということなんよ」
 福田さんがアユ釣りに入門した30年前、ナイロン水中糸で手尻を1ヒロほど取って釣るのが当たり前だった。この仕掛けでトロでよく掛かったことを思い出し、久々に試してみたのが2006年のこと。

掛かったアユを寄せ、水中糸をたぐり、タモの中に吊るし込む。引き寄せが前提の仕掛けだ

 そしてトロで使った仕掛けをそのまま瀬に持ち込んでみると、予想外の大アユが掛かり0.4号が切られた。これはと思い、0.6号や0.8号にして狙うと、急瀬でも驚くほどオトリが流れに入り、23cmを超えるアユが連発で掛かった。その後、あまり釣れないとされていた瀬で圧倒的な入れ掛かりが続き、一日70尾という釣果がザラにあった。

背ビレ近くに掛かるのはハリ先が鈍って滑っている証拠。交換のタイミングだ

長手尻だとオトリが入る

 なぜ、ナイロンの0.6号や0.8号といった太糸でオトリが急瀬に入るのか。理由はひとつ。手尻を長く取っているからだ。
 「手尻が短いと水中糸が突っ張ってすぐにオトリが浮く。でも長くすれば太糸でも不思議とオトリが入る。そのことに気付いたんよ」
 そして、このときにできる糸フケがオトリにとって適度な抵抗となり、その抵抗にあらがうように横泳ぎすることを知ったのだった。
 アユが掛かると急瀬の流れに乗って走る。ラインテンションをキープしながら福田さんが水を蹴立てて追いかける。手尻が長いから引き抜けないのだ。こうなることを計算して、動きを妨げる引き舟は腰に付けていない。川を駆け下りながら満面の笑みでやり取りを楽しんでいる。

掛かったら下って取り込むのが前提だから引き舟は付けない。あらかじめ取り込む位置にオトリカンを沈めておく

取り込みで下った分だけ戻らなければいけないのが、この釣りの一番辛いところ。タモに入れたアユが弱らないように水に浸けながら上流へ

瀬を下っては上流に戻る

 流れに乗って下る2尾のアユを追いかけて30mほど駆け下り、瀬尻の緩いところで水中糸をつまみタモに吊り込んだ。野性味を感じさせる20cmオーバーの見事な天然アユだ。
 「この釣りはしんどいんよ。でも掛かるから面白いんや」
 掛かった野アユを次のオトリとしてタモに入れ、腰を屈めて水に浸けながら上流の瀬肩へ。1尾掛かるたびに下った瀬をまた戻らなければならない。
 オトリを送り出したと思ったら、またすぐに掛かり、福田さんが駆け下る。その後は瀬肩のヘチから流心へ、そして瀬の中を攻めて川を走り続け、昼前までに25尾を仕留める。
 「これで一日釣り続けてみ、次の日は足が動かへんよ」と笑い飛ばした。
 太糸だけにオトリが弱ればすぐに浮いてしまう。だから弱る前に背バリを積極的に打ち、それでも底流れに入りにくいときは、ハナカンから15cmほど離してオモリ1.5号を打つ。背バリとオモリは急瀬狙いに欠かせないアイテムだ。

背バリやオモリなどオトリを沈めるアイテムは必需品だ

オートクルーズ釣法には速い流れが不可欠。それは手尻があまりにも長いため、流れが緩いとオトリを放っても竿で操作できずオトリが出ていかない

 超ロング手尻でオトリを横に動かすこの釣りを福田さんは「オートクルーズ釣法」と名付けた。川幅が広くて押しが強い川に向いており、熊野川以外では富山県神通川や福井県九頭竜川ほか、宮崎県五ヶ瀬川、熊本県球磨川でも威力を発揮する。あなたの近くの大河川でぜひ試してみてほしい。

2020/02/26

この記事はアユ釣りマガジン2009に掲載されたものを改訂、再編集しています

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